「髙橋の受験国語的こころ」~ 受験実証主義の現場から ~

~ 何だ、この文章は?! ~

 読み手である解答者は当然ながら文章を選べません。 どんな文章であろうが、取り敢えず読まざるをえない。 そもそも小学生を読み手に想定していない、難度の高い抽象的な評論なり論説なりの、 しかも良質とは言えない文章を平気で問題文に採用する学校があるのです。 学校側の好みや見栄やはったりでどこからか文章を引っ張ってきた挙句、設問はと言うと、 読解にあまり踏み込まない中途半端な見せかけのものが多い。 然しそれはそれで、どんな設問であろうと、正解に至る根拠さえあれば、 「解法のお約束とルール」で答えは出るのです。 解答の根拠がなければ悪問ですから、できなくても仕方無い。 作り手が無責任なだけで解答者に罪はありませんし、合否にも直接悪影響は降りかかりません。

 逆の場合もあります。 文章が読みやすいからといって安心するととんだ目にあう。 国語問題は設問がすべて、設問次第なのです。 たとえば、東北大学とF学園の問題文が同じでした。 だからといって東北の雄、旧帝大の東北大の問題がやさしいということにはならない。 ここに大いなる錯覚がある。 問題文のレベルと学校のレベルとは一致符合しません。 これが国語問題の常識なのです。
~「解答の根拠は絶対にある」と信じること ~

 問題作成者=作問者が本文に傍線を引いた瞬間に、設問の意図は決定します。 その意図は無原則で恣意的なものですが、作問者の意図に拘らず本文の表現に縛られる以上、 正解への接近、特定は、解法の手順を踏むことで客観的・論理的に自然解決の運びとなります。

 ところが、傍線部の前後近辺、周辺に解答の根拠がない場合もある。どうしたらよいか。 でも大丈夫。その場合、多くは設問そのもの、或いは傍線部そのものの表現自体に正解のヒント・手掛りが隠されています。 それはズバリ、正解とされる選択肢の中に、ヒント・手掛りとなる語句と同義の、類似の表現が紛れ込んでいるということです。 これを「言い換え問題」と私(代表)は呼んでいます。

 以前大学受験生を教えている時にある実験をしたことがあります。 受験生の目の前で、センター試験国語問題の選択肢識別問題を本文を読まずにやってみたところ、8割以上の正解を得ました。 生徒は驚いていましたが、何のことはない。 設問・傍線部の「言い換え問題」のオンパレードだったからです。 中・高・大の入試問題とはそのようにできているのです。 これを教えない手はない。 生徒には必ず真似をさせます。
~ 「国語力とは言い換え力である」と知ること ~

 さて、「言い換え問題」であるからには、同義・類義語の類を知らずして正解の特定は出来ません。
   ・たとえば動詞の場合、「弱気になる」という意味の言い換えはと言うと、
    「気後れする=尻込みする=ひるむ=たじろぐ=おじける=臆する」
    などが思い浮かぶでしょう。
   ・形容詞なら、「もどかしい=はがゆい=じれったい=いらだたしい」などが
    「思うようにならず、いらつく感じ」でしょうか。
出題者はこの手の言い換えで知識を試すのが大好きなんです。 英語問題なんか特にそうですね。 そもそも英文は各パラグラフに同義・類義語をできるだけ配置することが美意識の現れですから。

 とにかく、語彙力とは言い換え力です。 表現とは言い換えです。 もっと言えば、、国語問題はすべて「言い換え問題」であるということです。 記述問題でも、選択肢識別問題でも、本文や設問の意味内容を変えずに別の表現を取ったらどうなるかと聞いているだけです。 これを教えることが、受験指導者の手腕であり使命と言ってよろしいかと思います。
~ 常識的に、あくまで「小学生的」な記述に ~

 中学受験国語は今や記述問題の花盛りで、どこもかしこもその対策に追われているようです。 では、対策とは何でしょう。作文?違います。 記述問題とは、問題文のジャンルを問わず、本文中の事実や根拠に基づいて論理構成を求めるものです。 勝手な思いや意見や想像を書いてはいけません。

  確信はなくても、
   ① しかるべき根拠と思われるものを見つけ出し、設問の意図に沿って文章を組み立てる作業。
  その際に、
   ② たとえ稚拙であっても、個々の小学生なりの表現力の限界点でどのようにまとめるか。
  そして、 
   ③ 稚拙な表現なりの修正と補完を、家庭教師が傍らにいて共同で行う。
  はがゆくても、
   ④ 決して一方的に表現を押しつけない。
   ⑤ 誘導しながらある表現にたどり着く。
   ⑥ その時点での最高のパフォーマンスと見なす。

これらが記述指導における最も肝要な注意点です。 模範解答などないのです。 塾や業者の記述問題の解答例はすべて、言い換えを考慮できない、 誰が教えてもいいように作られた硬直したマニュアル「模範解答」です。 いくら真似をしても所詮は大人の作文。努力は実らず徒労に終わります。

生徒と向き合い、生徒の中から解答を引き出す、生徒本位の記述問題対策。 これしかありません。
~ 過去問集の解答は信用できない?! くわばら、くわばら ~

 受験学年になれば過去問集は必須アイテム。 その過去問の答えが信用できないとなると一大事ですよね。 ところが、信用できないケースが多々あるという現実。 国語の過去問では日常茶飯的にぼろぼろと出てきます。 たとえば、代表的な過去問集の出版社、声の教育社、みくに出版、東京学参などの解答を見比べますと、 記述問題の解答例が異なるのは当然として、記号解答の選択肢識別問題では、正解とされるものが一致しないなんてことはざらにある。 正解を特定しようにも根拠が特定できない場合ですね。 それでも当方としましては、何とか理由をつけて生徒に説明し、特定し、納得させる。 この業者のこの答えは違うと断定する。 それがプロというものです。 学校側が正解を公表していれば各社の解答は全問一致。 不一致なら公表していないと、すぐに分かります。 国語の過去問の答えは鵜呑みにできないということをご承知の上、くれぐれも取り扱いにご注意願います。